[AI書房] 第13章 センサ融合:レーダ・EO/IR・ESMデータ統合
人工知能戦闘機、人工知能空軍
第13章 センサ融合:レーダ・EO/IR・ESMデータ統合
金京鎮
空中戦で勝つコツは単純です。
まず見て、まず撃つのです。ところが「見る」ということは、想像以上に複雑な問題です。人間のパイロットの目はキャノピーの外の空だけを見ることができます。それも晴れた日、可視距離内に敵がいるときだけ有効です。現代の空中戦は数百キロメートル外で勝敗が決定されます。
肉眼で敵を確認するずっと前に、レーダーが敵を捕捉し、ミサイルが発射され、敵機が撃墜されます。これを「可視距離外交戦(Beyond Visual Range、BVR)」と呼びます。
問題は、どのセンサーも完璧ではないということです。レーダーを例に説明しましょう。レーダーは電波を発射して反射波を検出します。敵がいくら遠くにいても、金属面に当たった電波が戻ってくれば、位置と速度が分かります。ところがステルス戦闘機は、レーダー反射を最小化するよう設計されています。だからレーダーに引っかかりにくいのです。さらに、レーダーは電波を発射するため、自分の位置も暴露します。敵のESM(電子戦支援装置)がその電波を逆追跡すれば、狩人がかえって狩られる者になるかもしれません。
EO/IR(電子光学/赤外線)センサーは別の方法で敵を見ます。敵機のエンジンから出る熱、機体と空気の摩擦で生じる熱を検出します。電波を発射しないため、ステルス性に優れています。ステルス機もエンジンの熱は隠すことができないので、IRセンサーで捕捉される可能性があります。しかし距離測定精度はレーダーより劣り、雲や悪天候に脆弱です。ESMは敵が発射する電波を受動的に聞きます。敵レーダーが起動する瞬間、その周波数パターンを分析して敵の位置と機種を把握します。しかし敵がレーダーを切っていれば、役に立ちません。
各センサーは長所と短所を同時に持っています。レーダーは距離がよく分かるが、ステルスに脆弱で、IRは熱をよく見えるが距離が分からず、ESMは敵の種類が分かるが精密照準は難しいです。人間のパイロットがこれら全てのセンサー・データを頭の中で統合することは、ほぼ不可能です。レーダー画面を見て、IR映像を確認して、RWR(レーダー警報受信機)の音を聞いて、その全ての情報を瞬時に総合して判断しなければなりません。これこそが人間の「認知負荷(Cognitive Load)」の限界です。
AIの本当の力がここで明らかになります。「センサ融合(Sensor Fusion)」です。AIはレーダー、EO/IR、ESMが吐き出すデータを同時に分析・統合して、ひとつの完璧な状況図を作り出します。レーダーが「前方50キロメートルに物体あり」と報告し、IRセンサーが「前方48キロメートルに熱
源感知」と報告すれば、AIはこれが同じ敵機であるのか、それとも互いに異なる2つの物体であるのかを判断します。位置と速度の微細な誤差を補正して、ひとつの「トラック(Track)」に統合します。これを「データ連関(Data Association)」と呼びます。
次のステップは、敵の正体を明かすことです。
ESMが収集したレーダー周波数パターンを分析します。「この信号はロシア製Su-35のレーダーだ」と1次識別を行います。レーダーが測定した敵機の速度と旋回率を確認します。戦闘機級の機動性を持つのか、それとも民間航空機かを区別します。高解像度IR映像で機体の形状をディープラーニング・アルゴリズムが分析します。これら3つの情報をAIが総合して、「確率98パーセントで武装したSu-35、敵対的行為中」という最終結論を出します。パイロットには「発射可能」という信号だけが表示されます。
F-35 ライトニング IIはこのセンサ融合技術の結晶です。F-35にはAN/APG-81 AESA レーダー、AN/AAQ-40 EOTS(電子光学標的照準装置)、AN/AAQ-37 DAS(分散開口装置)、AN/ASQ-239 電子戦装備が搭載されています。DASは機体全方位に装着された6個の赤外線カメラで構成されます。パイロットがどこを見ようと、360度全方向の映像がヘルメット・ディスプレイに表示されます。床を見下ろすと、機体を透過して地上が見えます。後ろを振り返ると、6時方向の敵機が見えます。これら全てのセンサ・データをAIが融合して、パイロットのヘルメットにひとつの統合された戦場図として見せます。パイロットたちはこれを「神の視点(God's Eye View)」と呼びます。
敵がジャミング(電波妨害)を試みるとどうなるでしょうか。レーダー画面に数十個の虚像が現れます。人間のパイロットは混乱に陥ります。しかしAIはESMデータとIR映像をクロス検証します。レーダーには標的が引っかかるが熱信号がなければ、AIはこれを「デコイ」または「虚像」と判断して、画面から消してしまいます。この全てのプロセスがミリ秒単位で行われます。敵がフレアを撒いてIRセンサーを欺こうとしても、レーダー・データと対照すれば、本物の敵機とおとりを区別できます。
ヨーロッパの6世代戦闘機プロジェクトであるFCASとGCAPは、これをさらに一段階発展させています。単一機体のセンサ融合を超えて、編隊内の全有人・無人機がセンサ情報を共有する「クラウド・センサ融合」を目指しています。先頭の無人機がレーダーを起動して敵を探知し(自身は位置が露出するリスクを引き受け)、後方の有人機はレーダーを切った状態でその情報を受け取ってミサイルを発射します。自分の飛行機のセンサーには見えないが、味方ドローンが送信したデータで見えた背後に隠れた敵を照準できます。
結局のところ、センサ融合は戦場の霧を払い除く技術です。戦争で最も怖いのは敵ではありません。分からないことです。敵がどこにいるのか、何機であるのか、武装が何であるのか分からない状況で戦っ
たなければ、いくら良い武器も役に立ちません。AIのセンサ融合は、その無知の暗闇に光を当てます。多数のセンサ・データの洪水の中からノイズを濾過し、偽の標的を区別し、パイロットが信頼できる単一統合状況図を提供します。これが5世代、6世代戦闘機の本当の力です。ステルスではありません。融合です。




